真言宗智山派の総本山智積院には、大小の障壁画などの国宝をはじめ、多くの宝物や高僧の著作など貴重な古文書が伝えられています。
冠木門から金堂にむかって参道をすすむと、左手に収蔵庫が見えてきます。そこには長谷川等伯一門による「桜図」「楓図」をはじめとする桃山時代(十六世紀)の数々の障壁画が大切に収められ、参拝者にひろく公開されています。
『桜 図』(国宝)
桜図は、金箔をふんだんに使った絢爛豪華な色彩を背景に、力強い桜の大木を描き、そして絵の具を盛り上げる手法を用い、桜の花びらの一枚一枚を大胆に表現しています。まさに花びらの中から、長谷川等伯の子・久蔵の若さ溢れる情熱が眼前に迫ってくるかのようです。久蔵が二十五歳の時の作といわれています。が、残念なことに久蔵はこの翌年亡くなりました。
『楓 図』(国宝)
等伯は突然の息子との別離を悲しみ、創作意欲を失いかけましたが、息子の分まで精進しようと自分を鼓舞し、楓図を描き上げました。
桜図と同様な豪華さで楓の古木が枝をいっばいに広げ、その下には様々な草花がみごとに配されています。
息子の死という悲痛な思いを乗り越えた力強さと、落ち着いた秋の雅が感じられる等伯五十五歳の時の作品です。
この他に『松に秋草図』(国宝)、『松に黄蜀葵図(国宝)』、『松に梅図』(重要文化財)、『松雪の図』(重要文化財)などの作品があります。
全体的な特徴として、現代の手法では考えられないほど、金箔が惜し気もなく使われています。このような極彩色豊かな描写からは、豪華絢爛な桃山文化の息吹が感じられます。
智積院HPより